
6月27日金曜日 19時~20時 「第8回ながいきサロン」を開催しました。
今回もweb配信という形で開催し、多くの方々に視聴いただきましたこと、この場をもってお礼申し上げます。ありがとうございました。
当法人で行っている「ながいきサロン」は、地域の医療・介護・福祉に携わる皆様と医療的な言語・知識・認識を共有していくことを目的としています。
訪問診療を始めた頃に、様々な専門職の方々とご一緒させていただく中で、医療知識のレベルも人それぞれだな…と感じました。
その後、“患者さんをできるだけ自宅で診ていくためには、各専門職の知識レベルを向上し、早期に患者さんの異変を検知し介入することが大切だ“と考えるようになったのが、ながいきサロン立ち上げのきっかけとなります。
今回のテーマは、【ACP】(=Advance Care Planning)でした。
昨今の医療現場では、「残された余生をどのように本人が過ごしたいかを、本人やその家族に問うていくということ」が求められています。
病気を抱え、老いが進んで行く中で、本人の望まない医療や処置が行われないようにするために、その人が最期まで自分らしく過ごせるようにするためには何が必要かを模索するためです。
患者さんの療養方針は、医療者が独善的に決めていくものではありません。
医師から病状説明を聞き、患者さんが自身の病状を受け入れ、そのうえで、自分のこれからについて周囲に伝えていくものです。
今回はそのACPをテーマに、“患者さんの気持ちを上手に引き出し、意思決定を支援していくために“という点を中心に、都立荏原病院緩和ケア科の井原先生にお越し頂きご講演いただきました。
井原先生の講義内容は、おおまかに以下のとおりでした。
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・ACPとは
・理想的なACP
・ACPで大事なこと=『患者さんの人となりを知ること』
・ACPの実践:3ステージプロトコール
1st stage 病状説明
2nd stage 人生観・価値観に沿った治療目標の設定
3rd stage 治療選択の相談・事前指示の作成
・4つのコアとなる質問
『楽しみにしていることは何ですか』
『生きがいはなんですか』
『今後病状が悪化して一番気がかりなことは何ですか』
『OOになったら生きていたくないという考えはありますか』
・質問の順番:ポジティブな質問からネガティブな質問へ
・話の膨らませ方:自分の頭で相手の生活や考えをイメージする
・いつ行うか
―初回介入のとき
―入院が必要になったとき
―退院するとき
―治療方針がかわるとき
―本人が今後のことについて思い悩んでいるとき
・どうやって切り出すか:一般化
『在宅療養を開始する患者さん“全員に必ずしている話”があるのですが、よろしいですか』
・繰り返し行う:人の気持ちは状態によって常に変化する
・治療選択の相談:相手に許可を求めるのではない
・【SDM】sShared dDecision mMaking
医療者と患者さん・家族で協力してものごとを決めていく
患者さんのいままでの人生のストーリーと整合性のつく提案
・代理意思決定者のこと
・ACPは絶対か?
複雑かつ不確実、感情的な側面にふれる内容なため難しい
死に向けて準備したい人もそうでない人もいる
“すべての人にとっていいものではない“という認識をもつこと
医療者の事情を押し付けない
医療者と患者さんでは見ている時間軸が違う
・ACPとは『その人に興味をもって』『人となり』を知ること
コミュニケーションの集大成
・ARDの提言
Advance Rapport Development (アドバンス ラポール デベロップメント)
Rapport:患者さんとの信頼関係
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上記講演の後に、聴講者の皆様から事前に受け付けた質問内容に沿ってディスカッションを行いました。
切り出すタイミングやコツとしては、“患者さんに起こるイベント”をきっかけに、“一般化”するための枕詞を添えて話を始める、というポイントをご提示いただきました。
また精神疾患や認知症の患者さんへの介入についても、時間をかけて粘り強く関わりを持つことで、突破口が開けることがあるというお話がありました。
患者さんがどんな相手であれ、あきらめずに関わり続ける重要性をお示しいただいたように思います。
ACPは医療者だけが行っていくものではありません。
患者さんを取り巻くすべての人たちがその患者さんのストーリーを集め、集約し、方向づけを行っていくという点で、「総合的な関わり合いが求められる分野」だと思います。
「医療用SNSの活用」も広がりをみせています。
患者さんがどのような思いをもって過ごされているのか、SNSなどでもタイムリーに共通しながら、より良い支援を行っていきたいと考えています。
当法人の理念である『より豊かの地域医療のために』にある“豊かな地域医療”は、皆様との連携あってこそのものだと日々感じております。
これからも皆様と手を取り合い、一人でも多くの患者さんが自分らしく過ごせるよう努めていきたいと思います。

ながた内科クリニック
副院長 永田 健一郎